僕の最寄駅にはブックオフがあり、その隣にコンビニがある。
授業終わりや遊んだ帰りに小腹が空くと、家まで我慢できずによくコンビニに寄ってしまう。
コンビニはすごい。ちょっとした食べ物もスイーツもお酒も、なんでもそろっている。
特にお腹が空いたわけでも用があるわけでもないのにふらふらと吸い寄せられるようにコンビニに入り、無駄にお金を使ってしまう。あと10分我慢して家に帰れば美味しいご飯が待っているというのに。
その隣にあるブックオフは、漫画を立ち読みするための場所だ。
僕が住んでいる地域はあまり治安が良いところではなく、綺麗な青春漫画や、ドラゴン桜とか比較的頭がいい人、もしくはそうなりたい人が読むような漫画は全巻そろってなくて途中で抜けたりしているのに、DQNが大好きなクローズや頭文字Dは同じ巻が5冊も置いてあったりする。
僕も好きな漫画を読みによく立ち寄る。ただ漫画のあるフロアは疲れた大人や肩をいからした不良が溜まっていてあまりいい気分はしない。そんな場所だった。
僕がこの駅を使うようになったのは浪人時代からだ。
高校時代まで使っていた駅とは違う駅を使うようになり、自然と行きや帰りにこのコンビニやブックオフに立ち寄るようになった。
あれから数年、今まで数え切れないほどどっちの店にも立ち寄ってきた。
そして3ヶ月くらい前から読書にハマった。
これは皆さんも同じだと思うのだが、僕はふと突然読書にハマることがある。
初めては小学校4年生の時。家にあったハリーポッターを3周はした。
二度目は中学2年生の時。小説、随筆、科学の本、分野問わず読み漁った。
三度目は高校2年生の時。この時は海外の作家に夢中になり、もう亡くなってこの世にいない作家の小説を読みまくった。
そして四度目の、いってみれば第四次読書期が3ヶ月前に始まった。
始まりは溜まりに溜まった小説を仕方なく読み始めたことだった。
僕はあまり自己啓発本とかビジネス書が好きではない。
読まなくても知っているようなことがあたかも目新しそうに書かれ、無駄におしゃれな装丁で無駄に値段も高い。何よりそんな本を読むたびに「人生観が変わった」とかいう意識高い系が苦手だ。
その点小説はいい。特に古い小説は。色々な場所で評価されている小説というのはやはり読み応えがあり、読後の余韻も良い。これぞ読書という感じがする。
それに文体も、軽いビジネス本より小説の方が参考になる。ブログを始めて、真面目に文章を書き始めてみて気が付いたのだが、「こうすれば人を惹きつける文章が書ける!」なんて本を10冊読むよりも小説を1冊読んだ方が100倍いい。特に名作と言われる作品には名作たる所以がある。毎回読むたびに新鮮な発見があり、とても楽しい。
さて読書にまたまたハマった僕だが、ある日ふと気が付いたことがあった。
それは2ヶ月前のある日、大学の帰りだった。その日は五限まであり、最寄に着く頃にはお昼を食べてから8時間以上経っていた。お腹が空いて仕方がない。
いつものように菓子パンでも買おうとコンビニに入ったのだが、レジで酔っ払いと店員が揉めている。治安の悪い僕の地元ではよくある光景だ。激しく酔っ払いが怒鳴り散らしており、店の空気がピリピリしていた。
面倒ごとに巻き込まれたくないので、僕は騒ぎが収まるまで隣のブックオフに向かった。この日は金曜日。くたびれたサラリーマンも、バイクをブンブンふかすDQNも飲みにいってるのか店には人が少ない。
新しい本でも買おうかなと二階の文庫本のコーナーに向かった。
ちょうど気になっている作家がいたので、彼の作品のある場所まで向かう。
あった。これだ。
ボロボロの表紙。日焼けして色褪せたページ。
綺麗とは言えないその本の裏表紙にはブックオフの値札のシールが新たに貼り付けられていた。
¥108-
雑に貼られたのだろうか。斜めになったシールを見ながら僕はなんとなく考えた。
税抜100円か。パンと同じ値段だな。
コンビニのパンは安い。特にクオリティを求めければ税込108円でパン、またはおにぎりが買える。小腹を満たすのには十分な量だ。
ん?待てよ。同じ100円なら、パンより本を買ったほうがいいんじゃないか。
その時から僕の100円のパンを我慢して100円の本を買う生活が始まった。
その日、僕が買った小説は次の日の夜には本棚に積まれた。
その日は友達と約束があり、かなり遠くの街まで出かけた。往復で3時間以上時間があり、その間、夢中で読み進めていたらいつの間にか最後のページをめくっていた。
最寄に帰ってきたのは21時半。ご飯というよりお酒を飲んできた僕は酔いも覚めはじめ、思い出したかのようにお腹が減ってきた。
さて、今日もコンビニでパンでも買うか。
と顔を上げた僕の前には、何にも考えてなさそうな笑顔で本を開くブックオフの看板があった。
いやいや、家に帰れば何かあるのに無駄に100円使う必要ないよな。
そうだそうだ。本でも買おう。
22時には閉まるブックオフに入り、あまり考えもせず聞いたことのあるタイトルの小説を買った。
100円。
著者も知らない。ジャンルも分からない。
しかしその本も翌日には読み終えた。予想に反してめちゃめちゃ面白い内容だった。
これはすごい。読書熱にさらに火がついた。
100円で買える本というのはそこまで厚くないものが多い。ページ数にして200ページから300ページほど。読むのが早い人なら1日で読めてしまう量だ。
僕はそこまで読むのは早くはないが、その程度の厚さなら1日で読めてしまう。
その次の日も、さらにその次の日も、1日で本を読み終え、お腹がなる音を無視してブックオフに足を運んだ。
100円、また100円。さらに100円。毎日一枚100円玉が財布から消えていった。
そしてその度に、僕の世界が広がっていった。
100円のパンは僕のお腹を満たす。
一方、100円の本は僕の知識欲を満たしてくれた。
読書は本当にいいもんだ。筆者が作った世界を、僕らは旅することができる。
本の中でなら中世ヨーロッパにだって、戦国時代にだって、一万年後の未来にだって行けるし、英雄にも、悪魔にだってなれる。
そんな素敵な旅のチケットがたった100円で手に入る。なんて幸せなことだろう。
一冊、また一冊と新しい本と出会うたびに、僕の人生が豊かになっていった。
ありがとうブックオフ。ありがとう100円の本。ありがとう、新しい100円の価値に気がつかせてくれて。
それから数ヶ月、さすがに一日一冊とは行かないが、週に何回かはブックオフに足を運び、安い本を買っては読み、買っては読みする生活を続けている。
これからますます気温が下がり、読書の秋がやってくる。僕がページをめくるスピードもこれから上がっていくはずだ。
同じ100円でも100円以上の価値を生む使い方がある。
そのことを忘れずに、本とともに秋を過ごしていきたい。