<前回の記事>
ホテルに帰り30分ほど仮眠をとり目を覚ますとウォンからLINEが入っていた。
”今このあたりで遊んでるからこの駅に来てくれ!車で迎えに行くよ!”
今いるところから電車で20分ほどのところだった。僕は飛び起きて荷物をまとめた。
二泊三日のマレーシア一人旅。今晩が最後の夜だ。ウォンは昨日別れ際に明日は帰さないぞと行っていた。今夜は彼の友達と一緒にクラブでオールするのだ。気合いを入れていかねば。
僕は近くのコンビニでモンスターを買いカバンに忍ばせた。
電車に揺られ15キロほど西へ移動した。
これまた昨日と同様の人気のない駅で地球の歩き方にも乗っていない駅だった。
間も無くウォンが到着。さっと助手席にのり握手をかわす。
まずは腹ごしらえだとお気に入りのお店に連れて行ってくれた。
着いたのは駅から車で10分ほどのところにあった商店街で、土曜日ということもあり車で溢れていた。
ウォンおすすめの麺を注文。汁なし担々麺のような料理で麺が平たく、スパイスが効いている。病みつきになる味だ。
一緒に頼んだスープも美味しい。
結構量があり、ついさっきビリヤニを食べたばかりだったのでかなり満腹になった。
食べ終えて近くを散歩。するとドリアンが売られている市場を発見。
ドリアンと言えばその強烈な臭いが有名だが、切られてないこの状態だと美味しそうな甘い匂いがした。45RM、日本円で1500円。丸々一個でこの値段は日本で買うよりかなり安いだろう。めっちゃトゲトゲしている。
せっかくだから食ってみろよとウォンに勧められパック詰めされたドリアンを購入。
なかなかエグい見た目をしている。
このように剥かれた状態になって初めて臭いを確認できた。
それでもまだ強烈に臭いというわけではない。
お値段20RM、600円。マレーシアの物価からするとかなり高い。ウォンに聞くとやはり高級食材らしい。
テーブルにはビニール手袋が用意されていた。臭いが手に移るのでこれをつけるらしい。思い切ってかぶりつく。
うおおおっ!!!
臭いっ!!!
口に入れた瞬間、汗でびしょびしょのシャツのような、1日はいた靴下のような濃厚なアンモニアっぽい臭いが鼻をついた。
しかし味はうまい。臭さもあるが糖度が高く、ネチョっとした実を噛むたびに旨味がでる。臭いけど。
ウォンと半分こしてなんとか完食。満腹でキツかったが全然いけた。臭いも途中からそんなに気にならなかった。また食べたい。
市場はこんな感じで色とりどりのフルーツが並べられていた。
で
再び車に乗り込み移動する。こんな感じで土曜日のクアラルンプールはどこも車でいっぱいで駐車するのも一苦労だった。
お土産を買うのにいい所はないか聞いて見たところショッピングモールに連れて行ってくれた。こんな感じでかなり綺麗なところだった。
昨日から毎食飲んでいるホワイトコーヒーを購入。あの甘い味にいつの間にかハマってしまった。
ウォンがタバコを吸うために屋上へ移動。
日が沈みかけているクアラルンプールを一望できた。
タバコを吸うウォンに日没は何時かと聞いたところ、19時と教えてもらった。
ー僕の国は季節がないからね。一年中おんなじなんだ。君と日本であった時はちょうど春と夏の境い目だったからあんまりマレーシアより少し涼しいくらいだったなあ。今度は春に行って桜ってやつを見てみたいよ。
と言っていた。なるほど。日本に住んでいる僕にとっては四季のない国がどんなものか想像がつかなかった。一年中同じ気候というのはどんな感じなんだろう。服装も変わらなければ食べるものも季節によって変わることもない。
世界的に見れば四季がある国は珍しいだろう。特に日本は四季がはっきりしている。季節ごとに全く違う顔を見せる日本に惹かれ何度も訪れる外国人も多い。外国に行って改めて四季の魅力に気付かされた。
その後車に乗り、何とウォンの自宅に連れて行ってもらった。
僕らは華僑が多い地域に住んでいるんだ。と車を走らせること15分。一軒家が密集している地帯に入った。
街灯が少なく道も狭い。その一角に車を止めウォンの家に入った。
彼のお母さんが満面の笑みで迎えてくれた。挨拶を済ませテーブルにつくと庭で取れたというバナナとマレーシアのデザートでかぼちゃの冷製スープのようなものに大麦を入れた料理をご馳走してくれた。
小さいながら実はしっかり詰まっていて甘さも凝縮されている。
こちらは冷たくて美味しい。まだ外は暑く食がすすむ。
お部屋の写真を撮らせていただいた。
家族の写真がたくさん飾られている。
お父さんはまだ仕事中らしい。ウォンには弟がいて彼と同じく今はアメリカの大学に行っているらしかった。デザインの勉強をしているということだった。
ウォンが着替えに上の自室に行ったのでお母さんとしばらく話した。
お母さんも他のマレーシアの華僑と同じで、生まれながらにしてマレー語と、英語、そして中国語のトリリンガルだった。昨日から友達と海の近くでキャンプをしていたのだがスコールでテントが浸水してしまい大変だったらしい。そんなことを楽しそうに写真を見せながら教えてくれた。
話しながら昨日と同じ感動に胸が熱くなる。
どうしてこの国の人たちはこんなにも親切なのだろう。たまたま日本で知り合ったウォンと僕だが、マレーシアに着いてから彼とその家族、友達にお世話になりっぱなしだ。今日はおうちにまで招いてもらい、料理をご馳走になっている。
僕はお母さんに心からのお礼を述べた。息子さんが本当に親切にしてくれたこと、僕がすっかりこの国が大好きになったこと、お母さんの料理がとっても美味しかったこと。
下手くそな英語で僕が話し終えるのをお母さんはニコニコしながら聞いていてくれた。
着替えを終えたウォンが戻ってきた。さあ行こうかと車に乗る。お母さんも一緒に車に乗った。
五分ほど走り着いたのはアイスクリーム屋。
高校時代のウォンのバイト先ということだった。
土曜日ということもありお店は現地の人で混んでいた。色とりどりのアイスが並ぶ。
オススメのドラゴンフルーツのアイスを選んだ。お金を払おうとすると”お金はいいのよ!”と奢っていただいた。
実は僕は昨日からウォンたちに奢ってもらいっぱなしである。
昨日チャイナタウンで飲んだ謎の甘い飲み物も、初めて手で食べたカレーも。
心からの感謝を述べ、一緒にアイスを食べた。
ドラゴンフルーツのシャーベットは爽やかな酸味がして、暑い夜にぴったりだった。
車に乗り込み次の場所へ。この時すでに夜の21時。
これから昨晩カレー屋で会ったウォンの高校時代の友人、タカシの家でみんなで飲むということだった。
10分ほど車に乗りタカシの家に到着。お母さんとはここで別れた。ウォンに代わり車に乗ってお母さんは帰って行った。角を曲がって見えなくなるまで僕は手を降った。
タカシの家は豪邸だった。ウォンの家も綺麗で大きかったが、タカシの家はさらに大きい。駐車場には車が二台あり、庭にはゴールデンレトリバーがいた。
”今晩もよろしくな”とタカシと握手。
庭にある丸テーブルを囲んで飲み始まる。
出て来たのはマンゴーウォッカ。
グラスに特性の大きな氷を入れコーラで割って飲む。ウォッカの強烈なアルコールからほのかにマンゴーの香りがした。しかしなかなか強い。すぐに酔っ払いそうだ。
せっかくなので家の中を見せてもらった。
めちゃめちゃ広い。
テレビも大きいしソファもフッカフカで何台もある。
おまけにトイレはウォシュレット付きだった。マレーシアで初めて見つけたウォシュレットだった。相当なお金持ちなのだろう。
しばらく三人でお酒を飲み続けた。タカシもウォンもアメリカの大学を出ており、彼らの専攻はマーケティングだった。ウォンは就職先にいくつか候補がありまだ絞りきれていないということだった。タカシはしばらくは親の仕事を手伝い、その後独立したいと行っていた。貿易関係の仕事らしい。
僕が理系だというととても興味を持ってくれた。僕の英語力が至らず十分に説明できなかったが”やっぱりお前はスマートボーイだ”と褒めてくれた。
タカシは何度か日本に来たことがあり、福岡と大阪、京都、奈良に行ったということだった。まだ東京に行ったことがなく、秋葉原でゲームを買いたいと言っていた。
何でもファイナルファンタジーの大ファンで、アメリカにいた頃はアパートに引きこもってずっとやり込んでいたということだった。
しばらくしてタカシの両親が帰宅。買い物後らしく大量の荷物を抱えて車から降りて来た。タカシとウォンと早口の中国語で話したあと、僕には英語で話しかけてくれた。
”遠いところ来てくれてありがとう。マレーシアの夜を楽しんで行ってね。”
もうすでに楽しいですと笑顔で返事をした。
さらにしばらくしてタカシの友達が現れた。
先に現れたのはマレー系の男女でタカシと同じアメリカの大学に通っていた二人だった。一緒に卓を囲んでウォッカを飲む。
男性陣は僕以外皆喫煙者で、タバコの他に見慣れない器具で煙を吸っていた。
この液体を
こんな感じで器具の先端に塗り、セットして吸う。
タバコと違った匂いがした。
庭には中華っぽい祭壇?のようなものがあった。
僕らは互いに将来の夢について語り合った。彼らは生まれながらのトリリンガルであり、皆アメリカの大学を出ていて視野が広い。
誰一人マレーシアで働くことは考えておらず、より環境のいい英語圏の国で一旗揚げようとしていた。
みんなこの国に不安があるらしく、経済の急成長に政治が追いついていないと不満をこぼしていた。
何でも街の景色は半年ごとに一変しており、それに伴い生活も目まぐるしく変化しているらしい。しかし法整備がそれに追いついておらず、満足のいく労働環境が整っていないとうことだった。
そのため彼らの多くは海外の大学で学び、そのまま海外で仕事をするということだった。興味深い。
話はその後も盛り上がり、気がつくと23時を過ぎていた。そろそろクラブに行ってもいい時間だがまだ動かない。タカシの友達があともう一人来るそうなのだが連絡が取れないらしい。
”これがマレーシアスタイルなんだ。約束の30分遅れで来るのが普通なのさ。”
とウォンが僕に教えてくれた。
酔いも周り眠くなってきた。このままではいかんと僕は持って来たモンスターを飲んだ。これからオールするというのにこれはまずい。気合いを入れねば。
そこからさらに30分。
次第にみんなイライラして来たところにバイクの音が近づいて来た。
”やっと来たか”とみんな荷物をまとめ始めた。
門の前にバイクが止まり、中の様子を見ようと男が背伸びしているのが見えた。
みんな荷物をまとめるのに夢中なので門越しに話しかけに行った。
”やあ。僕はヒロシだ。話は聞いてる?日本から来たんだ。今日はこれからクラブに行くってんでワクワクしてるよ。よろしく。”
そう伝えると門の隙間からにゅっと手が伸びて来た。握手をしたいらしい。手を握るとやけに落ち着いた声で男が
”それはズバらしい。今夜はよろしく。最高の夜にしよう。”
柵の間から男の顔が少し見えた。黒縁のメガネをかけ、頭にタオルを巻いている。側には立派なバイク。クラブに行くからだろうか。おしゃれなジャケットで決めている。
このちょっとヘンテコな男が、僕のマレーシア最後の夜を忘れられないものしてくれた。
そのことを僕はまだ知る由も無い。
彼と僕のアツい夜の話はまた次回に譲ることにしよう。
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