実はこのところずっと1人で海外を旅行していて、最近投稿した記事はみな出国前に書き溜めたものだ。
日本にいない間に山本KID徳郁さんが亡くなったり、西野七瀬さんが乃木坂の引退を表明するなど、色々なことが起きた。
そして大女優の樹木希林さんの訃報も届いた。
そんな中あるフォロワーさんから亡くなった樹木希林さんのこの言葉について思ってることを書いてほしいと言われた。
その言葉がこれだ。
樹木希林さんのこの新聞広告、すごく素敵で印象的だったから亡くなったニュース見て真っ先に思い出した。どこに閉まってたのかも覚えてなかったのに、思い出してびっくりした。天国でも自由に過ごして下さい。 pic.twitter.com/pZSVBemFaK
— キサ@酒クズ隊長 (@meltyrabbit_k) 2018年9月16日
そのフォロワーさんは長寿化を可能にしてきた医療の進歩も今一度考え直す必要があると、樹木希林さんの言葉を見てそう思ったそうだ。
果たして人という生物が百何年も生きることは生物として自然なことなのか、幸福なのか。
たかだか20年そこらしか生きていない僕が人類の命の未来についてここで物申すのは大変おこがましいことだが、この樹木希林さんの言葉はとても重く響いた。
僕の好きな漫画家の諸星大二郎の短編集「彼方より」の中に、「カオカオ様が通る」という短編漫画がある。
諸星大二郎の作品に常識は通用しない。絵の奇妙な怖さや、どうしたらそんなのが思いつくのか検討もつかない奇抜なストーリーからカルト的な人気を博している。
僕自身、高校二年生の時、そういった隠れた人気を誇る不思議な漫画を集めていたときがあり、以前紹介した未完の大作「セラフィム」や僕がこの世で1番面白いと思っている「風の谷のナウシカ」の原作の漫画と一緒に買ったのが諸星大二郎だった。
そして先程触れた「カオカオ様が通る」という話には奇妙な民族が登場する。
彼らはタパリ人と呼ばれ、一見、普通の人間と変わらないが、彼らは美しい景色を見るとそのまま自ら命を絶つという奇妙な伝統をもつ。
「ああ、なんて美しいんだろう。」と、深く感動した清い心のままに命を自らたち、その魂を最も美しいままに天へ返すのだ。
この奇妙な話を読んだ高校二年生の当時の僕は、たいへんなショックを受けたものだった。なぜ美しいものを見て死ぬのか分からないし、これから先もっと楽しいことも経験できるはずなのにと。未来に希望を抱く当時の僕は釈然としないままページをめくっていた。
死ぬときぐらい、好きにさせてよ
あれから何年か経ち、いま僕は1人飛行機に乗りながら次の国を目指している。
死を疎むことなく、死を焦ることもなく。
ひとつひとつの欲を手放して、身じまいをしていきたいと思うのです。
上空1万m。
樹木希林さんの言葉が胸に響く。
この旅行では本当に綺麗な景色をたくさん見てきた。1人であちらこちらを回り、知らない土地で知らない文化に触れ知らない人と仲良くなっている。
楽しい。この一言に尽きる。
もし今乗っている飛行機が、この1万mの高さから墜落して死んだとしても、後悔はないだろう。
太陽に照らされる雲海を見ながら、この文章をつらつらと綴り、僕はそんなことを考えている。
この旅の思い出と共に、この雲を突き抜け真っ逆さまに山やら海やら街に落ちたとしても、「悪くない死に方だったな」と笑って成仏できるだろう。
僕ははじめてタパリ人の考え方が、ほんの少しだけわかった気がした。
僕はよぼよぼになって、満足に動けず、苦しみながら何百年も生きながらえたいとは全く思わない。
医療が進歩し寿命が伸びるのは構わない。だけど、元気にいい気持ちで生きられる時間よりも、苦しみ希望もなくただ未来で死ぬのを待つだけの延命は、僕は望まない。それでもいい。とにかく長く生きたいという人がいるなら、もちろんそれはそれでいいと思う。
ただこの旅のきらきらと輝く思い出に囲まれながらどこまでも続く雲の海の上を飛行機に乗って飛んでいる今、このような経験が出来ない体になってまで生きたいとは全く思えないのだ。
樹木希林さんの言葉は、僕にそんなことを考えさせてくれた。
人は死ねば宇宙の塵芥。
せめて美しく輝く塵になりたい。
この飛行機が墜落したら、きっと僕は美しく輝く塵なり、宇宙やら、本当にそんなものがあるなら天国とやらに帰っていく気がする。
だけど。だけどやっぱり、まだまだこの先楽しいことがあるはずだから、落ちては欲しくないな。
だけど死ぬときには、いまみたいなとても清らなかな心のまま、天に召されたいと思う。
「悪くない死に方だったな」なんて笑ってぽっくり逝けたなら、こんなに素晴らしいことはないだろう。
シートベルト着用の合図が出た。どうやら無事に着くようだ。飛行機は雲をするすると抜け、眼下に未知の世界が現れた。この記事もこのあたりにしておこう。
それでは皆さん、またお会いしましょう。
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