ボーイズバーの面接に行って体を売らされかけた話

 

すでにここまで来た以上、聞けるだけ聞き出そうという態度に変わっている。

 

 

 

「まあこれだけ高いお金もらえるんだからそういうことするのは当たり前だよね。普通のことして稼げるわけないんだからさ。分かってもらって良かったよ。泊まったりすることもあると思うけどきちんと尽くしてあげてね。」

 

おいおい止まんねえなと思いながら「はい。分かりました。」と答える。

言うまでもないがさっきまで言ってたことと全く違う。

 

隣に座るタハラもうんうんと頷いている。何頷いてんだてめえ。お前が言ってたこと全部嘘じゃねえか。

 

 

一通り話を終えると、契約書を書かされそうになった。が、「まだ働くとは決めてないので後日連絡します。」と断固として断った。

 

「そう。いい返事を待ってるよ。」

 

マナベの目は笑っていない。

 

「じゃあまた連絡します。ありがとうございました。」

 

と言って席を立った。タハラが「送るよ」と言い一緒に席を立った。

タハラにマナベが声をかける。

 

「マツモトさんありがとう。じゃあお願い。」

「はーい。」

 

おい。お前タハラって言ったよな。マツモトってミユキの名字じゃねえか。お前タハラじゃないだろ。本当はマツモトなんだろ。お前、女のふりしてTinderやって、働いてくれる男探してるんだろ。汚えぞ。

 

タハラ、いやネカマのマツモトの後に続き店を出た。

閉める時にカウンターに座っている店員の男たちがこちらを見ているのに気が付いたが、僕の視線に気がつくと目を逸らした。やはり顔を覚えられたくないのだろうか。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

下に降り、交差点のところまでネカマのマツモトと歩いた。

信号が赤になり僕らは立ち止まる。彼が話しかけてきた。

 

「どうだった?こういう業界って縁なかったと思うけど、頑張ればその分だけ稼げるからね。ぜひ前向きに考えてみてよ。」

 

「はい。」

 

働くわけねえだろと内心思いながら、これで最後だと思いマツモトに質問をした。

 

「店長のミユキさん、マツモトミユキさんは今日はどこにいるんですか?」

 

ちょっと間が空いて彼は言った。

 

「あー、今日は休みでねえ。家でゆっくりしてるって言ってたよ。たしか武蔵小杉の方に住んでてねえ。」

 

信号が青になり軽くお辞儀をして別れた。

渡りきったところでTInderを開きミユキのプロフィールを見る。

 

 

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嘘じゃねえか。武蔵小杉ならこっから10キロ以上は離れている。

それに2kmの表示は空いてがすぐ近くにいるときにしか出ない。

 

やっぱりな。お前タハラじゃないだろ。マツモトだろ。ミユキのふりしてたんだろ。

ミユキなんて女の子はそもそも存在してなくて、ネットで拾った写真使ってネカマしてたんだな。店員集めるために。どうりで絵文字もおっさんくさかったわけだ。

 

さっきまでいた禿げたおっさんが頑張って若い女の子のふりをしていたかと思うとおかしくなってくる。

 

 

 

ふざけやがって。

 

その場でマツモトのLINEをブロック削除し、Tinderもマッチ解除した。

これで一生あいつらと関わることはない。さようなら。

 

再び駅に向かって歩きながら、カウンターに座っていた僕と同じくらいの男たちを思い出した。

 

黒髪に端正な顔立ちの、ごく普通の男たちだった。

 

彼らは今日も、男に抱かれるのだろうか。

さっきまで知らなかった男と個室に入り、枕を共にするのだろうか。

彼らは進んでこの仕事を選んだのだろうか。

 

色々な思いが頭をよぎったが、すぐに忘れることにした。

僕とはもう一生縁のない世界だ。

 

やがて初めの横断歩道に差し掛かった。

この道路が二丁目と三丁目の境目になっている。

 

向こう側まで渡りきり、三丁目に帰ってきた。

ここが僕の生きる世界。向こう側は違う世界。僕の居場所ではない。

 

 

僕は自分の世界で、平和に生きよう。

 

 

汗がすうっと引いていくのを感じながら、家に向かう電車に乗り込み、新宿の街を後にした。

 

 

<参考記事>

www.nakajima-it.com

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