終電を逃したおかげで国境を超えた絆が生まれた話

 

 

昨晩終電を逃してしまった。

 

逃したとはいってももともと昨日は友人とオールするつもりだったのだが、なんと急用ができたとのことで急遽来られなくなってしまったのだ。

 

しかし時刻は0時を過ぎたところ。既に終電はない。眠らない街六本木にたった1人取り残されてしまった。

 

しかしこんなことでヘコタレれる中島ではない。終電を逃してからが勝負だ。人の真価は孤独な状況下でこそ試される。今がまさにその通りだ。

 

そう、御察しの通り僕は酔っていた。内心、「いや終電ない状況でドタキャンなんてふざけんな!!!どうすりゃいいんだこれ!!!」って感じである。と言うわけで僕はドン・キホーテで酒を3本買い1人で歩きながら飲んでいた。

 

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深夜の六本木を歩いたことがある人ならわかると思うが治安がとても悪い。その悪さは歌舞伎町などの日本人のオラオラがいる悪さとは違い、泥酔した大柄な外国人がめちゃめちゃいるのである。実際終電後に歩いてみるとここは日本か???ってくらい外国人が多い。実際昨日も道端で嘔吐してるおっさんを見てゲラゲラ笑ってる白人とか、強引にケバブを売りつけてくる中東系の人、怪しい日本語でキャバクラに誘おうとする屈強な黒人などバラエティに富んでいた。

 

そんな中1人酒を片手に歩くのはなかなかスリルがあって楽しい。万が一喧嘩を売られたときのためにちゃんと体を鍛えてある。流石に外国人には敵わないかもだけど、筋トレしているといつ何時も襲われても何とかなると言う謎の自信が生まれるので怖いものがなくなる。さあみんなもジムへ行こう。

 

こんなわけで小一時間うろうろ歩き信号を待っていたとき声をかけられた。

 

"Excuse me. Do you know famous clubs?"

 

アジア系の顔立ちが5人とヨーロッパ系が1人いた。どうやらクラブを探しているらしい。

 

 

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この記事書いたように僕は六本木周辺のクラブには少々詳しくなっていたので彼らにどう言うところに行きたいか尋ねてみた。するとどうやらとにかく日本人の女の子と仲良くなりたいらしい。

 

 

どこにいっても日本人女性はある程度いるからどこでもいいっちゃいいんだけどせっかく観光に来たんだからと豪華なところを紹介してやろうと思った。

 

東京で一番有名なのはドン・キホーテの目の前にあるV2というところで過去に本田圭佑やネイマール、ジョニーデップも来たことがあるんだけど、土曜日の終電後は金のない男性客は2時間待たないと入れない。もちろん彼らはそんなに待てないと答えた。

 

ならばと僕は一度だけいったことがあるELE TOKYOを紹介した。ここから徒歩十分くらいの麻布十番にあるクラブである。

 

よし、そんならELEに行って来い。綺麗な子がたくさんいるし音もいいぞと拙い英語で伝えると

 

"Why don't you come with us?"

 

と誘いを受けた。お前はこんな時間に1人で何してるんだ?と聞かれ事情を説明したところ”じゃあ来いよ!俺らに通訳してくれ!”と頼まれそんなら行くかとノリノリでついていった。何だか面白そうになって来た。

 

ELEまでの道、彼らと話しながら歩いた。どうやらアジア系の5人のうち4人は韓国からの観光客で皆大学生だった。友達と一緒に来たらしい。残るアジア系1人はマレーシアからの旅行客、ヨーロッパ系はフィンランドからの旅行客だった。2人はお互いひとり旅で、昨日飲み屋でたまたま出会い意気投合し、その日は渋谷でショッピングした後一緒に六本木に来たと言うことだった。

 

そうこうしているうちにクラブについた。

 

困ったことに彼らは誰も日本語が話せず入るのも一苦労だった。僕が何とか通訳したもののスタッフさんもあまり英語が話せず、それで大丈夫なのかと思ってしまった。

 

少々手間取ったのちボディチェックをへて中に入る。

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ELE TOKYOは麻布十番という立地にふさわしいラグジュアリィ感溢れるクラブである。音響もさることながら照明もド派手で天井も高く入った瞬間圧倒される。

 

僕は半年くらい前に1人で適当にクラブにいったのがきっかけですっかりハマってしまった。昔はEDMなんて下等なものと見下していたけど、今はガンガン聴いてテンションぶち上げている。人は変わるものなのだ。久々の爆音にテンションが上がる。

 

入るやいなや韓国人四人組は歓声をあげ人混みに突っ込んで行った。後で聴いたところ彼らはソウルで遊びまくっているパリピ集団でそのノリで準備万端だったらしい。ひとまずみんな楽しんでくれたようで僕らは酒を取りに行った。

 

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後ろの方でジントニックを飲みながら3人で話した。マレーシアの青年は現在22才。美大に通っていて今は少し学校を休んでアジアを旅しているらしい。日本には10日ほど滞在し、京都、兵庫、名古屋に行ったということだった。そして帰国は何と今日。このままオールした足でAirbnbの宿に戻り荷物をとって成田に向かうということだった。寝過ごすんじゃないかと心配になった。

 

フィンランドの人は29才。とりあえず働いているということだった。彼は何だかニヒルな笑みを常に浮かべていて、心から楽しむというよりは一歩下がった位置で場を楽しんでいるようだった。2人とも日本は初めてでエキサイティングだと言っていた。

 

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ELE TOKYOの面白いところは前方に大きなステージがあるところだ。盛り上がってくるとセクシーな衣装を纏ったダンサーが登場して来てパフォーマンスをする。

 

2人とも英語が堪能なのでEDMの歌詞も知っていて大いに盛り上がっていた。無論僕もである。普段は幾らかの下心を持って参戦しているわけだが今回は彼らを心からもてなすために参上した。

 

今日は僕の股間にある使い所のない棒を握るのではなく、いつの間にか配られた謎の光る棒を持って踊り狂う。

 

 

 

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時折、「おい!弘こっちへ来い!この子と話したいから通訳してくれ!」と頼まれては飛んでいった。留学帰りで英語ペラペラの人もいれば全く無理という人もいた。無論、話したくない言い訳の可能性が高いが。

 

それでも何とか話し相手を見つけ、気がついたら女の子と一緒になって踊っていた。一応僕の役目は果たせたのだろうか。一安心して僕も後ろの方でお酒を飲む。

 

時刻は4時。だいぶ疲れてきた。ふと横をみるともうぐっちゃぐちゃにイチャイチャしてる男女や、床に座って寝ている人もいる。ただここでは金持ち以外に人権はないためそんなことをしていたら屈強な店員さんに退けと叱られてしまう。酔って倒れて運ばれてく人もいてなかなかカオスであった。見ているだけで楽しい。

 

その後再び彼らと合流し、5時になったところでおひらきに。

 

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 フロアの熱気が冷めていく。散らばった紙吹雪が雨で散った桜のように床に積もっている。誰かがこぼした酒でできた水溜りにも浮かび、静かにクラブの終わりを告げていた。

 

外はすでに明るかった。冬はこの時間だとまだ真っ暗だったのに、もう日差しが眩しい。そうかもう6月か。今年の半分が既に終わろうとしている。いつの間にか確実に時間が進むのが早くなっていた。

 

陽を浴びるなり2人は

"Fucking sunshine!!!"

と叫んだ。まだまだ遊んでいたいらしい。昼まで空いてるクラブはないかと尋ねられあるにはあるけど体大丈夫かと聞いたら、流石に疲れたし飛行機があるから僕は帰るよとマレーシアの青年は答えた。対するフィンランド人は腹が減っていてオススメの店に連れてってくれと頼んで来た。それならば一択しかない。日本のシメといえばラーメンである。僕らは再び六本木へと戻った。

 

向かった先は天下一品である。僕はこのラーメンが大好きだ。外国人にもラーメンは人気らしく、店に入るなりこれがラーメン屋かと大興奮していた。

 

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食べても2人は大感動。スープを飲むなりこんな美味いラーメンは初めてだと満面の笑み。連れて来てくれてありがとうと固い握手を交わした。オール明けでテンションがおかしいのか何だか涙が溢れて来た。

 

遠い土地からはるばるやって来た外国人2人の日本の思い出に僕が刻まれたのである。拙い英語ながら僕は魂で会話した。本当はもっともっと伝えたいことがあるのになかなか単語が出てこない。そんなもどかしさも感じつつ、彼らとの会話を楽しんだ。

 

 

やはり英語は使う場面がないと勉強する気にならない。今日話した2人はどちらも英語が母国語ではないのに超ペラペラだった。学校で習っただけといっていたがマレーシアは多民族国家だしフィンランドはヨーロッパにあるし、英語を使う機会がそもそも多いのだろう。その点日本はぬるま湯に浸かっている。中学高校の授業なんかで話せるようにはならない。ただ読めるようになるだけだ。でも読めるだけでは魂の篭った熱いコミュニケーションを交わすことはできない。

 

俺はお前らと話したいことがもっとあるんだ。そう思いながらスマホを片手に必死に話した。

 

「日本人はほとんど英語話せないけど、弘、お前の英語は上手いよ。」といってくれて嬉しかった。

 

ちょうどその時、僕がtinderでマッチして会話が続いていた女子大生から連絡があり今六本木にいるんだけどもしかしてまだいる?と連絡が来た。今日は六本木にいるかもと前日に話していたのだ。

 

いるよと返すとせっかくだし会おうと連絡が来て何と天下一品の中まで来た。

 

今日初めてあった外国人2人とtinderで初めて顔を合わした女子大生が同じテーブルについている。まじで意味がわからない。こんなに情報量の多いテーブルは日本広しといえどもここくらいだろう。

 

彼女はハーフで昔アメリカに住んでいたらしく、英語が堪能だった。僕がかろうじてついていけるスピードで2人と話し、じゃ、友達が待ってるからまた今度ねと五分も経たないうちに颯爽と帰っていった。

 

マギー似の綺麗な子と話せて2人は満足そうで一安心だった。それにしてもカオスな状況だった。もう心もお腹もいっぱいだ。

 

飛行機があるからと僕らは店を出た。フィンランドのお兄さんはこれから日本にいる友達の家にいくらしい。別れの時である。僕らは固いハグをし、LINEを交換し、帰路に着いた。実は近いうちにこのマレーシアの青年と会うことになったのだが、詳細については別の機会に話そう。

 

 

彼らの背中が見えなくなってから、僕は駅に向かった。朝の六本木は相変わらず騒がしい。

 

酔っ払って騒ぐ人、キャバクラの客引き、道端で寝ている人。彼らには彼らの出会いがあり、それぞれが自分の物語を紡いでいる。

 

僕は駅に向かってまっすぐ歩く。まさかこんな何の変哲も無い男が信号待ちの時にたまたま話しかけてきた外国人と朝まで遊び呆けたなんて思いもよらないだろう。そう考えると楽しくなって来た。

 

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港区の夜を照らしていた東京タワーは明かりを落とし、すっかり朝の顔になっていた。

 

マレーシアの青年はこれから国に帰り、フィンランドのお兄さんは友達の元へ帰る。

 

さあ、僕も帰ろう。

 

オール明けにも関わらず不思議と気分がいい。

 

たまにはオールも悪く無いな。

 

僕は始発に乗り込むため、地下へと続く階段を勢いよく駆け下りた。

 

その場にいる誰よりも速く走れた気がした。

 

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