ゴールデンウィークになった。どこもかしこも人で溢れ、雑踏の中に気力も体力も吸い込まれていく。
おまけに夏のような暑さだ。まだ春だというのに日差しがジリジリと肌を焼き、汗ばむ陽気にまだ初春を忘れていない体が追いついていない。
ーそうだ。久しぶりに”あそこ”に行くか。
4月最後の日の午後、僕はそう思い立ちレジャーシートを取り出しバックに詰めて家を出た。
今日は皆さんに僕の秘密のオアシスを紹介したいと思う。
そのオアシスは代々木駅からちょっと歩いたところにある。
代々木駅は新宿と原宿の間にある駅だが、常に人が多い新宿や原宿と違い落ち着いた雰囲気だ。実際ゴールデンウィークにも関わらず人は少なかった。
5分くらい南にまっすぐ歩くと、オアシスの入り口が見えてきた。
そう、ここは明治神宮だ。
そしてここにはあまり知られていないオアシスがある。
鳥居をくぐり中に入るとなんだか空気がひんやりしている。
来るまでの道中は暑いくらいだったが、木々に囲まれとても涼しい。そしてご覧のように境内には人が少なく、外国人観光客が静かに写真を撮っていた。
脇道で浴衣で写真をとる人たち。まるで京都のようだが、ここは渋谷区。
東京のど真ん中だ。
しばらく歩くと神楽殿の入り口が見えてきた。
人気の場所なのだろうか。人がさっきよりも増えてきた。
僕のオアシスはここを抜けた先にある。
神楽殿を抜け静かな道へと進む。
さらにさらに奥へ。
さっきまで降り注いでいた日差しは木々に遮られ、風が枝を揺らしている。
あたりを見回しても木、木、木。
途中前後に誰も歩いていない状況になり少し怖さも覚えたくらいだ。
さっきまでかいてた汗が引きはじめ、肌寒くなる。
僕は先を急いだ。
歩くこと5分。開けた空間が見えてきた。
そう、ここが僕のオアシス、明治神宮宝物殿前広場だ。
信じられるだろうか。ここはゴールデンウィーク真っ只中の渋谷区である。
芝生は青々と生い茂り、見渡す限りの青空、遠くに見えるNTTドコモ代々木ビル。
まるで別世界に来たかのようだ。
車も入ることができるようで何台か停まっている。
木に寄りかかって本を読む人たち。
ピクニック、バドミントン、フリスビー。
家族連れがそこそこいて、広大な芝生の上でめいっぱい体を動かしていた。
僕も一角を陣取り、レジャーシートを広げ、横になる。
本当に全然人がいない。聴こえてくるのは木が揺れる音と遠くで遊ぶ子供達の笑い声だけだ。
シートの上に寝っ転がりながら読書。なんと贅沢な時間だろうか。
続いて持って来たiPadで映画鑑賞。
1時間くらいたっただろうか。眠くなってきたので少し昼寝をすることにした。
芝生の上は全く暑くなく、木のおかげで日差しもない。
柔らかい風が僕の肌を撫で、雲ひとつない空を眺めながら僕は眠りに落ちる。
聴いているのはジブリのサウンドトラック。
となりのトトロより、風の通り道。
この曲がこれほど合う場面はなかなかないだろう。
美しい音楽とともに満たされた気分になった僕は30分ほど眠りについた。
起きると少し日が傾きはじめていた。
かなり体が冷えていた。
暑いと油断し、ポロシャツに薄手のパーカーで来てしまったが、もう少し厚着して来た方が良かったかもしれない。
時刻は午後5時。
昼寝でスッキリし頭はここ最近で一番と言っていいくらい冴え渡っていた。
周りの人もぼちぼち帰り始める。
さあ、僕も帰ろう。
荷物をまとめ今度は原宿駅へ向かって歩き出した。
出口に到着。原宿側はやはり人が多い。
この時期は18時に閉園だそうで、門は半分閉じられていた。
今回は代々木駅から来たが、小田原線の参宮橋駅から来るのがもっとも近いようだ。
代々木駅からだと明治神宮の敷地に入るのには五分程度なのだが、宝物殿前広場に行くにはそこからさらに歩かなくてはならない。
それも静かな要因のひとつだろう。
神宮橋を渡り、大型連休で賑わう原宿の街に僕は帰っていく。
大声で笑う人、不機嫌そうにスマホをみて歩く人、何か必死に叫んでいる人。
これが東京だ。
だけどそんな都会にも、心安らげる場所がある。
ちょっと足を伸ばせば、あなたのすぐそばにも、きっとオアシスがあるはずだ。
都会の喧騒に疲れたら、ぜひ明治神宮に足を運んでみてほしい。