1951年3月、コペンハーゲンの銀行に男が押し入り、拳銃を突きつけ金をよこせと脅し、近くにいた係員2人を射殺し逃走した。
男が逃走に使ったのは自転車で、目撃情報も多く寄せられたため事件の数時間後に逮捕された。あまりに稚拙な犯行のため、当初は短絡的な犯行と考えられたが、やがて逮捕された男、ハードラップは奇妙なことを口に出す。
自分は第三次世界大戦に備えるためにある政党を立て、万一戦争が起きれば銀行強盗で手に入れた金を使って選ばれし者を安全に避難させるとう言う計画を真面目に語り出したのだ。
実際ハードラップの家からは政党のユニフォームやポスター、彼の計画を裏付ける資料が見つかった。
取り調べにかかった捜査員たちは、すぐにハードラップの様子がおかしいことに気がつく。銀行強盗を働いた上に人を2人殺したにも関わらず、平然としているのだ。人を殺して罪の意識を感じていないのかと問われても”何も感じない”と答え、その理由は”神にそうするよう命じられたからだ。”と言った。
その後精神科医と面接し、君はどこから銀行強盗を思いついたのかと尋ねられても、”守護天使からだ。”としか答えなかった。
やはり彼は妄想に取り憑かれ犯行に及んだのだろうか。
さらに驚いたことに、事件の7ヶ月前にも同様の銀行強盗があった。犯人はいまだに捕まっていなかったが、手口からしてどうやらハードラップの犯行に間違いない。
しかしハードラップの生活は質素で、大金がどこに消えたのか全くわからない。
何かがおかしい。この事件には裏がある。
警察が疑い始めた矢先、ある1人の男が警察に来た。男の名前はニールセンといい、ハードラップが逃亡に使った自転車は自分の者だと供述したのだ。もちろん警察はニールセンの関与を疑ったが、証拠はないも出なかった。ハードラップに尋ねても、ニールセンは全く関係ないと答えた。
しかし実はニールセンとハードラップには深すぎる関係があったのだ。実は2人には前科があり、かつて2人は三年間同じ刑務所に収容され、ほとんどを同じ房の中で過ごしていたのだ。
警察は本格的にニールセンを疑い始めた。しかしいくら操作をしても物的証拠が出てこない。そして何よりハードラップ自身がニールセンの関与を全面否定しているのだ。
これはおかしい。きっとニールセンがハードラップの頭をおかしくしたに違いない。そう考えた警察は精神科医を招集し、本格的にハードラップの精神状態を調べ出した。そしてそこには、マインドコントロールの深い闇が隠されていたのであった...
人を思い通りに操りたい。これは全人類の願いだろう。僕だってそうだ。きれいな女の子に気に入られたいし、目上の人にはよく思われたい。危ない人には目をつけられないようにしたいけど友達とはいい関係でいたい。そう思った僕は本屋でこのマインド・コントロールと言う本を買った。
数年前にかなり流行った本で、当時はある芸能人が占い師に洗脳された事件があったりでマインドコントロールは大きな話題を読んだ。
この本ではマインドコントロールの歴史を振り返りながら、実際に人の心を操るのにはどのようなテクニックがあるのかまで紹介されている。
特に興味深いのはマインドコントロールや洗脳に用いられた方法論である。オウム真理教のようなカルト集団ではどのように信者を信じ込ませていたのか、テロリストがどうやって善良だった人間を自爆犯に仕立て上げるのかや、実際の医療の現場で用いられる催眠術など、明日にでも試せそうなものも書かれている。
その話の中で特に面白かったのが先ほど書いたハードラップの事件だ。
ニールセンは刑務所を出た後もハードラップに付きまとい続けた。そしてやがてハードラップはニールセンの金づるになり、生活費を切り詰めてまで金を渡すようになった。そんなニールセンをハードラップの妻は当然嫌っていたが、ニールセンは取り調べに対してハードラップの妻、ベネットが彼を洗脳し強盗を仕向けたのだと主張する。この状況に置かれてもハードラップは依然としてニールセンの肩を持ち続けた。
このままでは真相が明らかにならない。そう考えた警察は最後の手にでた。
”このままでは一生精神病院で暮らすことになる”とハードラップに伝えたのだ。するとその日から彼の様子は一変し、ついに自らペンをとると、18ページにも渡るニールセンによる想像を絶する洗脳の手法と彼の心の闇を綴り始めたのだった。
この続きはぜひ本を買って読んでいただきたいのだが、ここまで読んでいただいたようにハードラップはニールセンによるマインドコントロールを受けていた。しかし全員が全員マインドコントロールで支配できるわけではない。本書によると、世の中にマインドコントロールを受けやすい人間は以下のようなタイプに多いそうだ。
①依存的なパーソナリティを持っている
②高い被暗示性
③バランスの悪い自己愛
④現在および過去のストレス
⑤支持環境の脆弱さ
これらを抱えた人間はマインドコントロールの被害に会いやすい。
例えばオウム真理教や、海外のテロリストに高学歴の人間が多いのは③によるところが多い。自分はすごいんだ、誰よりも賢いんだという膨らんだ自己愛を持ちながら周りに評価されていない人間は自分を適切に評価してくれる場所を求めている。そのためカルト集団などやっていることの善悪に関わらず自分を認めてくれる環境に入り浸り、知らぬ間にどっぷり使っている場合が多いのだ。
そしてマインドコントロールする側はこういった弱点につけこんでくる。
このようにマインドコントロールと聞くと一見恐ろしいもののように見られるが、使い方次第では人に良い影響も及ぼす。
かの有名なフロイトは心に傷を抱えた患者を催眠状態にさせ、自らその悲しい過去を語らせることで心的外傷を治療してきた。
自己暗示がもまたいい例だ。クーエという医者は患者に”あなたはよくなる”と暗示を与え、実際に数多くの患者を快方に向かわせた。このように自己暗示をすることで自分の潜在意識を前向きにし、本当に調子がよくなるということも科学的に証明されている。
つまりポジティブな思考を常に心がけることで本当に自分の状態をあげることができるのだ。これは今日でも多くのリーダーが実践している方法だ。
また、マインドコントロールは相手にマインドコントロールされていると悟れずに相手にかける場合がもっとも有効になる。例えば会社に超人的なカリスマがいたとしよう。彼の発言は常に皆の心をうち、社員を奮い立たせる。話せばとても気さくである一方で自信に満ち溢れていてこっちまで元気になる。このカリスマは潜在的なマインドコントローラーであり、社員は知らないうちにマインドコントロールを受けているということができる。
もちろんこれはいい意味でのマインドコントロール だ。カリスマをはじめ、その周りにまでいい影響がある。この影響力は、社員の、誰かに頼りたいという依存性や、この人についていけば間違い無いという被暗示性によるものだろう。逆にいえばあなたがリーダーシップを発揮したり、好意を寄せる人に好かれたい場合にはこの手法が使えるのだ。
この本でも紹介されているが、
①自信満々に話す
②否定から入らない
という2つの原則を守ると相手の懐に入りやすくなる。これは僕も常日頃意識していることで、これに従うだけでコミュニケーションがかなりうまくいく。
まず①についてだが、自信に満ち溢れた人との会話は楽しい。声に張りがあり、エネルギーが自分にも伝わり、会話に気合が入る。そして②のように相手の話すことに対して否定から入らずに、”そうだよね”と同意から入ることで相手は自分から話しやすくなる。
会話は言葉のキャッチボールだ。自分の言葉を相手が聞いてくれて、かつ相手の言葉を自分が受け取ってこそコミュニケーションは成立する。
自信に満ちた感じで振舞うことで相手は自分の話しを聞いてくれるようになり、相手の言葉に同意から入ることで相手は話しやすくなる。
こういったことを実践するだけで相手の信頼、好意を勝ち取ることができるのだ。なんだか当たり前のことを書いてしまったが、ぜひ実践してみてほしい。
逆にいえば自分に自信がなくてネガティブなことばかり話し、とりあえず否定から入るタイプの人間との会話は最悪だ。大抵そういう人は一部の同じ性格の人とかたまり、絶望的に同性にも異性にもモテない。自信ありげにいることは魅力的であることに直結するのだ。
後半はかなり卑近な例をあげてしまったが、このようにマインドコントロールは良いことにも悪いことにも応用されてきた。しかし善人にせよ悪人にせよ、マインドコントロールをかける側の人間はいったん相手の心に入り込む必要がある。つまり相手に心を許してもらうのだ。
こうすることで相手に自分を信頼させ、術中に落とし込んでいくことができる。この点においては悪人ではあるが彼らは優れたテクニックを持っており、彼らの話術、振る舞い方から学べるものは多い。
催眠術や洗脳を仕掛けたい人は少数だと思うが、相手に心を許してもらう、つまり信頼してもらうまでのプロセスを知りたい人は多いはずだ。
そのような手法も数多く紹介されているので、新しい人との出会いが増えるこの時期に一冊読んで見てはいかがだろうか。