Chim↑Pom(チン↑ポム)は度々世間を騒がせてきたアーティスト集団だ。そんな彼らが出した本 ”芸術実行犯” には、彼らの活動の歴史と、彼らと同じ志を持った世界中の新進気鋭のアーティストたちの作品が紹介されている。
彼らは2005年に結成し、男性5名、女性1名の6人で活動を開始した。そのうち男メンバーは誰一人芸術の教育など受けたことすらなく、バンドを結成したがパンクとは何かを考えすぎた結果演奏は一切しないという結論に達したバンドマンや、美大を目指して三浪したが諦めたニート、とにかくビックになりたくて岐阜から出てきた田舎者などなど、破天荒なメンバーで構成されている。
そんなChim↑Pomのアートはとにかくぶっ飛んでいる。
彼らは結成して三日後、唯一の女性メンバー、エリイを五人で囲いイッキコールをし、彼女がノリノリでピンクの液体を飲み、ピンクのゲロをぶちまけるという行為を永遠と繰り返す映像作品を作り、”ERIGERO”と名付け展覧会に応募するも、アートをなめてんのかと一喝される。
しかしそれにもめげず、彼らは彼らの信じるあアートを、世界にぶつけ続けた。
エリイはメンバー唯一の女性メンバーで、田園調布のお嬢様学校に通いながら毎週渋谷のセンター街に遊びに来るギャルだった。だがギャルでありながらも三島由紀夫や太宰治を愛して止まなかった彼女は、彼らの文学を通して感じた人間の儚さや本質を自分でも表現でしたいと強く願い、Chim↑Pomに入った。
そんな彼女の幼い頃からの夢は”地雷除去”だった。そんな突拍子も無い夢ですら、Chim↑Pomはアートに変えてしまう。
実際にカンボジアに行き、地雷除去をしてるおじさんに頼み、除去した地雷でエリイのプリクラや高級バッグや、彼女をかたどった石膏像を爆破し、後日それらをオークションにかけたのだ。通常のオークションとは違い、はじめに高い金額をつけ、買い手がつくまで落としていくというシステムを彼らはとった。
会場のスクリーンには日本円、USドル、カンボジアの通貨リエルとともに、その金額で買える義足の数が映し出された。価格が下がるとともに減っていく義足の数。
次第に気まずそうに手をあげるコレクターが現れ始め、エリイの爆破された私物は売れていった。彼らは売り上げを全額カンボジアに寄付した。
そんなChim↑Pomはその後、渋谷の野良ネズミを捕獲し剥製にし、体を黄色く塗り、赤い丸を頬に描きピカチュウそっくりにして”スパーラット”と名付けた展示をしたり、”オレオレ”と名乗って無作為に選んだ老人に電話をかけ、振り込め詐欺とは逆に相手の口座にお金を振り込む”オレオレ”という作品を発表したり、カラスの剥製を持ち拡声器を使いカラスの声を町中に響かせ、東京の空をカラスで真っ黒にした作品”BLACK OF DEATH”を発表する。
そんな彼らの活動は次第に注目され始めるが、一躍彼らを有名にした2つの作品がある。
その1つが”広島の空をピカッとさせる”だ。
この作品は題名の通り、広島市上空に小型セスナを飛ばし、”ピカッ”という文字を書いた作品だ。いうまでもなく原子爆弾を意識している。このアートは世界中で大きな論争を呼び、Chim↑Pomはお騒がせアート集団として批判の的になった。
そしてもう1つの作品が”LEVEL7 feat.「明日の神話」”だ。そう、僕が以前書いた記事に出てきた、渋谷駅の井の頭線とJRを結ぶ通路にある巨大な壁画、岡本太郎作”明日の神話”に、Chim↑Pomは彼らの絵を描きたしたのだ。
nakajima-it-blog.hatenablog.com
彼らが描きたしたのは、福島の原発事故を想起させる、骨組みだけになった建物から、黒煙が登っている絵だった。彼らはその絵を塩化ビニル板に描き、マスキングテープで貼り付けたのだった。東日本大震災から1ヶ月後の、2011年4月30日のことだった。
当然この騒動は大きな物議を醸し、軽犯罪法違反だとか建造物侵入だ、などと大変マスコミを賑わせた。
と、こんな風に”芸術実行犯”の前半部分は、彼らのアートの系譜がまとめられている。
後半は彼らChim↑Pomと同じ志を持った海外のアーティストの活動紹介だ。
Chim↑Pom級にぶっ飛んだアーティストに度肝を抜かれた。
全長55mの巨大なウサギのぬいぐるみを丘に置いたウィーンのジェラティン。
街中の巨大ポスターから8mある女性モデルの写真をくり抜き、”誘拐”し、切り取った指を会社に送りつけ身代金を要求したフランスのゼウス。
他にも建設中の銀行に強盗を装って突撃し、建築資材を盗んでいった中国のダブル・フライ・アートセンターなどなど。
とりわけロシアのヴォイナの作品は凄まじい。
彼らの代表作
”KGBに捕捉されたペニス/ヴォイナの65メートルのチ●ポ”
という作品は思わずそのタイトルに笑ってしまうがぶっ飛んでいる。
2010年6月14日、チェゲバラの誕生日を記念し、彼らヴォイナのメンバー9人は7人の警官に追われながら橋が上がるまでのたった23秒のうちに27mも幅のある橋に全長65メートルのペニスを描いたのだ。
彼らはこう語る。
”ロシアなんていう超保守的な巨大権力にファックするには6cmの中指じゃ足りなかったんだ。最低でも65mは必要だったのさ。”
ヴォイナ(Voina)とはロシア語で”戦争”を意味する。公園でみんなで集まっているだけで逮捕されるような国で本気で政治と向き合うには、当局と本気で”戦争”するしかない。
午前1時。橋が上がる定刻になると、全長65mのペニスはゆっくりと屹立を始めた。そしてロシア当局に対する本気の”ファック・ユー”が完成したのだった。
この橋は、KGBというかつて反体制活動を弾圧したソビエトの巨大組織の後継機関、ロシア連邦保安庁の目の前にかかる跳ね橋だった。
ヴォイナは巨大権力と真っ向からアートで勝負を挑んだのだ。
そして彼らのアートは、実際に社会を変えてきた。
”ERIGERO"はただエリイがイッキを強制され虐げられている作品ではない。なぜならエリイが爆笑しているからだ。フェミニズムに更新とか、ダイエットとかいろんなテーマを扱っていると捉えることもできる。
広島の空をピカッとさせ日本中からバッシングを受けた彼らの一番の理解者になったのは、被爆者団体の方々だった。
ゼウスが誘拐したポスターの女性には、実際に50万ユーロの身代金が支払われた。
そしてヴォイナの”KGBに捕捉されたペニス/ヴォイナの65メートルのチ●ポ”は、なんとロシア文化省から現代美術部門のイノベーション賞が贈られた。
彼らが真剣に、命がけで、真っ向からアートに向き合った結果だった。
僕は”芸術実行犯”を読む以前からChim↑Pomの活動は知っていた。
でも周りの迷惑を顧みずはちゃめちゃな活動を繰り返す彼らを見て、こんなのただの悪ふざけで何がアートだと思っていた。でもこの本を読んで、ただ作品の表面をなぞるだけではなく、できるまでの過程、作品の意味、社会に与えた影響まで見る必要性を強く感じたのだ。ここでは紹介しきれなかったが、”芸術実行犯”には彼らの作品のエピソードがより深く描かれている。
最後に、僕が印象に残った一節にこんなものがあった。
エリイのバイブルである「ジョジョの奇妙な冒険」には「覚悟」という言葉が頻繁に出てきます。覚悟については僕らも常々思うところがあります。人間は覚悟の分だけしか手に入れられないし、また提供できない。いい作品を作りたいなら、やっぱり覚悟を決めるしかないわけです。
-”芸術実行犯” p.60
覚悟を決めてアートに向き合う。たとえどんな批評に晒されようと、自分たちの作品を作り続けてきたChim↑Pom。これからも彼らの作品から目が離せない。
エリイはいつも気持ち悪い エリイ写真集 produced by Chim↑Pom
- 作者: Chim↑Pom
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2014/05/30
- メディア: 大型本
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